高知地方裁判所 昭和44年(ワ)706号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕原告の受傷ならびに後遺症の存否について検討するに、<証拠>によれば、原告は、昭和四四年二月一六日の事故当日から松田病院に入院し、当初は、気分が悪い、左手にしびれ感がある、吐気がある等を訴え、その他左手の握力低下を示し、右治療に当つた松田医師の診断によれば、頸椎捻挫(むちうち症)の病名により、同年五月三一日まで約二か月半の入院治療を要する見込みであるとされて、入院を継続中のところ、その後もめまい、頭痛、右の耳鳴り、両足のしびれ感、運動制限を訴え、神経学的には左の大後頭神経の圧痛ならびに右のホルツネ症候群、レントゲン的には、頸椎の五、六および六、七間に運動制限、および椎間板狭少が認められたのであるが、四月頃になると、頭痛はなくなつたものの、(六)の痛みを主として訴え、握力の低下(ことに左が酷い)のほか、めまい等がみられたところ、結局同年七月二九日同病院を退院し、その後も通院を繰り返しているのであるが、原告には、なお頭重感、頭痛が一応後遺症(もつとも特別に酷いものではない)としてのこつていること、他方、原告は、明治四一年四月一九日生れで事故当時六〇才であり、右松田医師の所見によれば、原告が頸椎に変形性脊椎症という病気をすでに持つていたことは事実であり、前示原告の頸椎の異常等は、外傷のほか、原告の老人性変化が加味されて発現しているとみられると診断しているほか、同医師は、前記の同年五月二二日付で作成された診断書は、自賠用のものであるが、これが実際の入院治療の経過と矛盾している点につき、原告から調子が悪いという話があり、その都合で入院期間がのびたものであると思われるとし、しかも、同医師は、同年五月頃には退院してもいい症状であり、その後においても自ら歩きまわれるし日常生活も一人でやつている関係上、過酷な仕事でない限り、同年一〇月頃からは、多少軽度のものに限定されるとはいえ就労が可能であつたとみられるとしていることがそれぞれ認められ、これに対し、証人大坪幸枝の証言、および、原告本人尋問の結果によれば、原告は同年一一月まで松田病院へ通院したが、その後も昭和四五年中、近森病院、平田病院に通院を続け、昭和四四年七月二九日からも、手がふるえる状態で、なお頸部や頭部の疼痛を訴え、殆んど仕事をしないで経過し、昭和四六年には、駐車場の監督として稼働し始めているが、現に、梅雨時や天候が不良の時は具合が悪く、手がふるえたりする状態であると訴えていることが窺われるところであつて、以上の事実に従えば、原告が本件事故により頸椎捻挫の傷害を受け、これに原告に予じめ存在した頸椎の老人性変化が競合関与して、原告につき事故後の頸部痛等の後遺症状を惹起しているものと認められるところであるが、証拠上、原告が事故前からかかる症状を訴えていた形跡は認められないから、結局のところ、本件事故と右後遺症との間には、相当因果関係が存在するものと判断せざるを得ない。<中略>
原告の損害
イ 治療関係費
原告が本訴において治療費を請求していないことは、訴状の記載上明らかであるが、後に示すとおり、本件において被害者の素因の現症への関与による控除を行なう場合には、過失相殺に準じ、請求外の損害を除外すべきではないと解するのが相当であるから、その額についてみるに、前示原告の事故後における入、通院の経過に、<証拠>によつて認められる松田病院における治療費が金四五六、七二五円に達しているとの事実を併考すると、原告の本件事故による治療費は、金四五六、七二五円以上に及んでいるものと認められるところであり、このほか、<証拠>によれば、原告は、昭和四四年七月二九日松田病院を退院後、通院のためタクシーを利用し(このタクシーによる通院の点は当事者間に争いがない)、金一八、二八〇円を支出したことが認められ、以上の反証はないから、原告は、右治療費等として、合計金四八〇、〇〇〇円(金一〇、〇〇〇円未満切上げ)の損害を被つたこととなる。
ロ 休業損害
<証拠>によれば、原告は、事故当時、その主張のとおり青果物の販売、卸売等を行ない、一か月金一五〇、〇〇〇円を下らない収益をあげていたところ、本件事故により、右営業を一切止めるに至つたことが認められこれを動かすに足る証拠はないが、他方、<証拠>によれば、原告の妻が、原告の営業に協力していたこと、このほか、青果商なる営業による収益には多少の変動が予定されることがそれぞれ窺われるところであるから、これらを考慮すると、原告の事故前一か月の収益は、金一二〇、〇〇〇円を限度とするものと認めるのが相当である。しかして、前示一で認定した病状等の事実によれば、原告の休業期間は松田医師の証言に従い、ほぼ、松田病院における入、通院期間である事故後八か月であるとみるのが相当であるから、この限度で原告の休業損害を肯定することとする。してみると、原告の休業による損害は、金九六〇、〇〇〇円となる。<中略>
原告の素因の考慮
前示一で認定した、原告の本件事故による受傷の程度、後遣症の内容、自賠保険請求の診断書における要入院期間と実際のそれとの齟齬、医師は退院可能と考えたが原告の都合によつたものである事実等から、原告の症状が難治化している性格的側面が窺えるのみならず、前示の原告に予じめ存在した頸椎の老人性変化が、原告の事故後における症状の発現および長期化に関与していると認められるところであり、このような場合、その症状による全損害を加害者に負担させるのは損害の公平な分担という不法行為法の理念上相当でないから、かかる被害者の素因を損害額算定における減額事情として考慮し、現症への素因の寄与度による過失相殺に準じた割合控除をなすべきであると考えられ(なお、東京地判昭和四三年一月一三日、交通民集一巻一号五頁参照)、本件について、以上の諸般の事情を勘案すれば、その相当因果関係を有する損害に対する寄与度を三〇パーセントと認めるのが相当であるから、これを前示三の損害額合計金二、四四〇、〇〇〇円から控除することとする。してみると、右損害は、計数上金一、七〇八、〇〇〇円となる。(稲垣喬)
〔編注〕 本件については本誌二六一号二三九頁東地判昭四六年二月一八日およびそのコメント参照